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京都地方裁判所 昭和44年(む)128号 決定

主文

被告人の勾留を取消す。

理由

一、本件勾留取消請求の趣旨、理由は弁護人村田敏行作成の勾留取消請求書記載のとおりであるのでここにこれを引用する。

二、一件記録によれば、被告人は昭和四四年一月三一日業務上横領被疑事実により勾留の請求を受け、翌二月一日勾留され、同月一八日右事実により起訴され爾後勾留期間を七回更新されて現在に至っていることが明らかである。

三、(一) 記録によれば、被告人は本件勾留の基礎となっている昭和四四年二月一八日付公訴提起にかかる業務上横領被告事件について公訴事実中客観的事実は概ねこれを認めており、検察官請求の書証についても浅沼信夫の司法警察職員および検察官に対する各供述調書および被告人の各自供調書を除くほかはすべて取調済になっていること、そして、右不同意の書証にかわる証人浅沼信夫の尋問はすでに相当部分が取調済になっていることが認められる。

従って右被告事件については被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由は消滅したものと認めるのが相当である。なお、検察官は昭和四四年一一月一二日付追起訴にかかる有価証券偽造、同行使、詐欺被告事件について、被告人にはなおその罪証を隠滅するおそれがあり、勾留を取消しても再勾留の必要も生ずるため本件勾留を継続する必要がある旨主張するが、本件勾留は前記業務上横領被告事件に基くものであるから、他の訴因についての罪証隠滅のおそれを勾留の要件とすることはもとより許されないところである。

(二) 次に、検察官は本起訴および二回に亘る追起訴にかかわる事件を通じてみると刑事訴訟法第八九条第三号にいうところの被告人が常習として長期三年以上の懲役にあたる罪を犯したものであるときに該当すると主張する。本件起訴、追起訴にかかわる各事実は業務上横領或いは有価証券偽造、同虚偽記入、同行使、詐欺の各所為を反覆したものであることが認められ、その期間、頻度等から被告人について右条項にいう常習性の存することも充分首肯できるところである。又、被告人については昭和四四年八月六日保証金三〇万円で保釈が許可されているが未だに保証金を納付していない点などからみて逃亡のおそれが全くないとは言い切れないものがある。

(三) しかしながら、本件は前記浅沼証人が各追起訴事実に関連する証人であるということで被告人、弁護人の同意のもとに六回に亘って追起訴待ちのため期日を続行して今日に至ったものであり、その間検察官は再三に亘り追起訴予定の日を確約しながら履行していない事実が記録上明らかに認められるということに深く思いを及ぼす必要がある。そしてその勾留期間は現在九ヶ月余に達しているのであり、かつ、右の如き事情に照らすと前記のような訴訟進行の遅れを被告人の責に帰することは相当とは認められない。

四、以上諸般の事実を綜合すると、被告人に常習性が認められ、かつ、多少なりとも逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとしても、本件勾留による拘禁は不当に長くなったものと解するのが相当である。

よって、弁護人の本件勾留取消請求は理由があるから、刑事訴訟法第九一条第一項を適用して本件勾留を取消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 石井恒)

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